吉本信子,森田昌行
表面技術, 62(4), 15-20 (2011)
小特集:未来材料としてのマグネシウム
https://www.jstage.jst.go.jp/article/sfj/62/4/62_4_211/_pdf
【概要】
マグネシウムイオン電池に関する,2011年時点のでの総説。現時点で読んでみても,非常に示唆に富む内容が多い。
2011年の時点で,NEDOの「次世代自動車用高性能竹田システム技術開発」のプロジェクトで,次世代技術として,マグネシウムなどの多価カチオンを介した電池系が取り上げられていた。それから10年以上経った現時点でみて,マグネシウムイオン電池系に関する概念は,この総説で述べられている内容と大きな違いはないように思える。
著者らは,「電池の二次電池化技術は,電気化学的な酸化・還元反応が可逆的に進行する負極および正極を見つけだすことに集約される。負極に関しては金属の析出・溶解が可逆的に進行する系がその候補となるが , 実用的には鉛蓄電池の負極のように, 酸化体の電解液への溶解度が低く,電極上へ堆積する系の方がその繰り返し反応に好都合である 。」と述べている。
マグネシウムイオン二次電池の研究開発の経緯に関しては,
「二次電池としてのマグネシウム負極の可能性に言及した研究としては, 1950年代後半にMgBrを溶解したエーテル系溶媒から金属マグネシウムの電析が可能であるとの報告が最初であろう。1980年代以降には,二次電池の負極を想定し非水媒体中でのマグネシウムの電気化学に関心が持たれるようになった。その結果,金属マグネシウムは水溶液以外の電解液中でも不動態となりやすく,これが二次電池の電極としては大きな障害となることがわかった。その後1990年代後半になって,臭化ェチルマグネシウム(EtMgBr)のようなグリニャール(Grignard)試薬を含む工ーテル溶液を用いることで金属マグネシウムが不動態になりにくく,可逆的なカソード析出とアノード溶解が可能であることが報告され,マグネシウム負極を用いる二次電池の可能性が示唆された。」
「その後Aurbachらにより,テトラヒドロフラン(THF)またはグライム系のポリエーテルを溶媒とし,これに有機アルミン酸マグネシウム塩(Mg(AlCl2BuEt)2)を溶解した電解質が提案された。この系では可逆なマグネシウムの析出・溶解が可能であるばかりでなく,THFにBuMgClのようなグリニャール試薬やMg(BPh2Bu2)2塩を溶解した他の電解質に比べて,電気化学安定性,特に酸化側の電気化学安定性が高いと報告されている。」
と解説されている。
今後の研究開発に関しては,
「金属マグネシウムを負極活物質とする二次電池に対する関心は極めて高い。それは,現状の二次電池を超える電池性能が期待されるばかりでなく,材料の資源性や経済性の面,さらには電池システム全体の安全性や信頼性の観点からも大きな可能性を持つからである。しかしながら,技術の現状はいまだ「可能性を検証する」段階に過ぎない。負極の析出・溶解の可逆性のみならず正極過程の確立,固相内でのMg2+イオンの拡散速度の向上など,課題が山積しているが,これらを解決する鍵は正極・負極ともに適用可能な電解質系を新たに開発することにあると言っても過言ではない。すなわち,現在までのところ,マグネシウムが可逆的に析出・溶解するグリニャール系電解液はその高い還元性のため,正極過程には適応できず,逆に正極材料中にMg2+イオンが可逆的に挿入・脱離できるような有機溶媒系電解液では,負極マグネシウム金属の析出・溶解は可逆的に進行し難いからである。」
とされていた。