特開2009-064730,
出願人:ソニー株式会社,
【概要】
「負極活物質としての金属マグネシウムの優れた特性を十分に引き出すことができ、且つドライルームなどの一般的な製造環境で製造することができるマグネシウムイオン含有非水電解液、及びその製造方法、並びにこの電解液を用いた電気化学デバイスを提供する」ことが課題されている。
↑全体を通して,固体電解質に関する言及はない。
電解液としては,
「金属マグネシウムと、ハロゲン化炭化水素(CH3Iなど)と、ハロゲン化アルミニウム(AlCl3など)と、第四級アンモニウム塩(CF3SO3N(C4H9)4など)とをエーテル系有機溶媒(1,2-ジメトキシエタンなど)に添加し、撹拌しながら加熱処理することによって合成」されたものが挙げられている。
↓技術背景で,マグネシウム二次電池の研究開発の推移が詳しく述べられている。
「金属マグネシウムやマグネシウムイオンを用いる電気化学デバイスを設計する上で、電解液の選択は極めて重要である。例えば、電解液を構成する溶媒として、水やプロトン性有機溶媒のみならず、エステル類やアクリロニトリルなどの非プロトン性有機溶媒も用いることができない。その理由は、これらを用いると、金属マグネシウムの表面にマグネシウムイオンを通さない不働態膜が生じるからである。この不働態膜の発生の問題はマグネシウム二次電池を実用化する上での障害の一つになっている。」
↑マグネシウム一次電池は,水系電解質となっている。上記は,二次電池における問題点だろうか。
マグネシウム一次電池は,マグネシウム金属と,ハロゲンイオンおよびハロゲンとの化学反応に基づいており,その電極反応によって,たえずマグネシウム金属表面が活性化され,不動態膜が除去されると考えてよいだろうか?
「金属マグネシウムの表面にマグネシウムイオンを通さない不働態膜が生じる」問題は,負極と正極との間をマグネシウムイオンが移動することにより充放電が行われるマグネシウムイオン電池における問題となるだろうか?
「不動態膜発生の問題がなく、マグネシウムを電気化学的に利用可能な電解液として、グリニャール試薬(RMgX:Rはアルキル基またはアリール基であり、Xは塩素、臭素、またはヨウ素である。)のエーテル溶液が古くから知られている。この電解液を用いると金属マグネシウムを可逆的に析出・溶解させることができる。しかし、電解液の酸化分解電位が金属マグネシウムの平衡電位に対して+1.5V程度と低く、電気化学デバイスに用いるには電位窓が不十分であるという問題がある(後述の非特許文献1の記述参照。)。
【非特許文献1】D.Aurbach,Z.Lu,A.Schechter,Y.Gofer,H.Gizbar,R.Turgeman,Y.Cohen,M.Moshkovich,E.Levi,”Prototype systems for rechargeable magnesium batteries”,Nature,407,p.724-727 (2000)(第724-726頁、図3)」
↑グリニャール試薬型の電解質の場合には,その反応性によって(グルニャール試薬を構成するハロゲン化アルキル基またはアリール基とマグネシウムとの反応性によって?),マグネシウム表面の活性化が起こっていると考えてもよいだろうか?
「 これに対し、2000年にバル・イラン大学のオーバッハらは、マグネシウムを電気化学的に利用可能な電解液として、Mg(ZRnX4-n)2のテトラヒドロフラン(THF)溶液(但し、Zはホウ素またはアルミニウム、Rは炭化水素基、Xはハロゲン、n=0~3)を見出した(後述の特許文献1および非特許文献1参照。)。彼らは金属マグネシウムの析出・溶解だけでなく、2000回以上の充放電サイクルを可能としたマグネシウム二次電池を試作した。
【特許文献1】 特表2003-512704 (第12-19頁、図3)」
↑THFは,揮発性の高さや封止材のダメージなど,実用上の難点があると思われる。
「 一方、後述の特許文献2には、Rがアリール基である芳香族グリニャール試薬RMgX(ここで、Xは塩素または臭素である。)のエーテル溶液を用いることで、電解液の酸化電位が低いという問題は解決できると報告されている。
【特許文献2】 特開2004-259650 (第4及び5頁、図1)」
「しかしながら、特許文献1に報告されている電解液は、電解液の合成に不安定な原料と様々な溶媒を用い、作製工程が非常に煩雑である。例えば、電解質塩として用いられているジクロロブチルエチルアルミン酸マグネシウムMg[AlCl2(C2H5)(C4H9)]2は、大気中で不安定であるため、電池の製造工程は、アルゴンボックス内などの不活性雰囲気中で行わなければならない。このため、この電池を、有機非水電解液を用いる電池の一般的な製造環境であるドライルームで製造することができない。従って、特許文献1に報告されているマグネシウム電池をそのまま製品化することは、実際的には不可能であると考えられる。」
↑確かに,困難だと思われる。
「 また、特許文献2に酸化電位が+3.8Vであると記載されていた、臭化フェニルマグネシウムC6H5MgBrの濃度1.0mol/lのTHF溶液は、本発明者が詳細に追試し
たところ、実際には+2.0V付近から分解し始めることが明らかになった。」
↑民間企業の出願で,これほど詳細に背景技術に言及した特許文献はなかなか見かけない。
そして課題としては,
「 本発明は、上記したような問題点を解決するためになされたものであって、その目的は、負極活物質としての金属マグネシウムの優れた特性を十分に引き出すことができ、且つドライルームなどの一般的な製造環境で製造することができるマグネシウムイオン含有非水電解液、及びその製造方法、並びにこの電解液を用いた電気化学デバイスを提供することにある。」
と述べられている。
「本発明のマグネシウムイオン含有非水電解液は、マグネシウムイオン及びアルミニウムイオンがエーテル系有機溶媒に溶解している電解液であって、
金属マグネシウムと、ハロゲン化炭化水素RXと、ハロゲン化アルミニウムAlY3と 、第四級アンモニウム塩R1R2R3R4N+Z-とが、前記エーテル系有機溶媒に添加され 、これらが加熱処理されることによって生成する。
本発明者が鋭意研究に努めた結果、この特異な構成を有する電解液を用いると、マグネシウムを可逆的に溶解および析出させることが可能であることが判明した。しかも、このマグネシウムイオン含有非水電解液は導電性が高く、且つ、酸化電位が高く、大きな電位窓を有するため、電気化学デバイスの電解液として好適である。
↑第四級アンモニウム塩R1R2R3R4N+Z- の添加がポイントになるのだろうか?
「(但し、前記ハロゲン化炭化水素を表す一般式RX中、Rはアルキル基又はアリール基であり、Xは塩素、臭素、又はヨウ素である。また、前記ハロゲン化アルミニウムを表す一般式AlY3中、Yは塩素、臭素、又はヨウ素である。また、前記第四級アンモニウム塩を表す一般式R1R2R3R4N+Z-中、R1、R2、R3、及びR4はアルキル基又はアリール基であり、Z-は塩化物イオン(Cl-)、臭化物イオン(Br-)、ヨウ化物イオン(I-)、酢酸イオン(CH3COO-)、過塩素酸イオン(ClO4-)、テトラフルオロホウ酸イオン(BF4-)、ヘキサフルオロリン酸イオン(PF6-)、ヘキサフルオロヒ酸イオン(AsF6-)、パーフルオロアルキルスルホン酸イオン(Rf1SO3-;Rf1はパーフルオロアルキル基)、又はパーフルオロアルキルスルホニルイミドイオン((Rf2SO2)2N-;Rf2はパーフルオロアルキル基)である。)」
請求項は25項で,第1~10項がマグネシウムイオン含有非水電解液に関するクレーム,第11~20項がマグネシウムイオン含有非水電解液の製造方法に関するクレーム,第21~25項が電気化学デバイスに関するクレームとなっている。