山崎一正(日本金属株式会社 顧問),
軽金属 第72巻 第3号(2022),92–98,
Development of anode material for magnesium secondary batteries
Kazumasa YAMAZAKI
Journal of The Japan Institute of Light Metals, Vol. 72, No. 3 (2022), 92-98,
https://doi.org/10.2464/jilm.72.92
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jilm/72/3/72_720303/_pdf
【概要】
「二次電池の構成要素としては,他の二次電池と同様に正極,負極,電解液,セパレータなどがあるが,マグネシウム合金二次電池の開発では,正極反応,正極と電解液との反応の評価に主眼が置かれ,負極材の開発はほとんど行われてこなかった。これは金属材料の専門家がマグネシウム合金二次電池の開発に携わることがなかったためであると考えられる。そこで今回マグネシウム合金の板材を扱ってきた材料メーカーが開発に参画し,従来のマグネシウム合金の欠点を克服したマグネシウム合金二次電池負極用の新しい合金を開発することができた1), 2)ので,その内容を紹介する。
1) 栗原英紀,稲本将史,吉田隆一,菊池鉄男,齋藤 護,佐藤雅
彦,山崎一正:第59回電池討論会講演要旨集,(2018),1G08.
2) 日本金属株式会社プレスリリース:2020.12.15」
↑まさに,指摘されている通りで,マグネシウム二次電池の実現のためには,様々な分野の研究者・技術者の力が必要と思われる。
「マグネシウム合金二次電池の開発においては,主に正極材料,電解液の開発に主眼が置かれていたため,負極材料に着目した研究は少なかった。ほとんどの研究において,負極材料としては一般的な圧延材であるAZ31(Al:3%,Zn:1%を含む)か,あるいは純マグネシウムが使用され,正極・電解液の評価としてPtなどが用いられていた。・・・以上のように負極の検討はいくつか見られるが,金属材料的観点から検討を加えた開発は少なかったのが現状である。」
「負極表面でのマグネシウムイオンの溶解・析出を可能とさせる方法としては,従来は化学反応を阻害する皮膜の除去,あるいはその性質の改善に主眼が置かれていた。しかし,負極合金そのものの電気的活性を高めることも一つの方法である。従来は負極合金の化学組成,結晶組織,第2相の存在,晶出物・析出物の存在などについてはほとんど研究されてこなかった。」
↑確かに,負極のマグネシウム材料に関してはその特性への着目は希薄で,純マグネシウムおよびAZ31等のマグネシウム合金の二次電池を含めて,マグネシウム二次電池と呼ばれていたこともあるように思う。日本金属株式会社では,これを,マグネシウム合金二次電池,と区別している。
「電解液としては,溶質としてマグネシウム塩である Mg(TFSA)2を,溶媒としてエーテル系溶媒であるジメチルアセトアミド(DMAc)を用い,さらに無水コハク酸(SA)を添加した系が用いられた。この電解液は,Mg(TFSA)2の分解によって生じる不動態皮膜の形成が抑制され,マグネシウムの溶解・析出を阻害しない系である。正極には,電流および電気容量が律速とならないように十分に過大な面積を有する活性炭が使用されている。活性炭は,電気容量は小さいが,マグネシウム二次電池において比較的高速で安定な充放電が可能となる材料である。」
「結晶の溶解速度は結晶面に依存し,低次の面の溶解速度が遅いことが知られていた。マグネシウ
ム合金も同様に(0001)面の溶解速度が遅いことが知られ,生体疑似溶液中ではあるが,(0001)<(1210)<(1010)<(1123)<(1012)の順に溶解速度が速まることが確認されている。
一般的なマグネシウム合金圧延材は,圧延面に平行に(0001)面が形成されるため,圧延面を負極表面として使用すると活性が低いことが予想された。・・・・・,端面,すなわち六方晶の柱面が露出している材料では,電気化学活性が高いことがわかった。」
↑レーザープロセッシング的には,多くのアイデアが湧いてくる。
「マグネシウム合金の電気的活性を高めるための別の方法として添加元素の影響についても同時並行的に調査した。銅を添加することにより,マグネシウム合金が負極材料として優れた性能を示すことを発見したのは偶然の産物によるところが大きい。マグネシウム合金における銅,鉄,ニッケルは耐食性を阻害する金属として忌避されている。銅では含有量が300 ppmを超えると耐食性が劣化するので,通常はこの量以下に抑えられている。しかし,思い切って銅を %オーダーで含有させた合金を作成し,二次電池としての特性を調査すると優れた結果が得られた。
・・・・・
Mg 2Cuが電気化学的活性化に大きく影響していることが予想された」
↑Mg 2Cuの形成がXRDで確認されたとのこと。
図8dの 電気化学試験後の Cu 5% 添加合金SEM像は,多孔質な表面構造となっており,酸化還元反応に伴うCu2+カチオンの溶出・析出やマグネシウム活性面の露出,多孔質構造の形成による実質的な表面積の増加等の影響はどうだろうか。
金属材料の面からの,マグネシウム合金系の構造と電気化学的な特性の相関に関する種々の情報は,他の文献では得られなかったものであり,示唆に富む点が多々あり,非常に参考になる文献だった。