リチウム電池系では,従来の2次元平面状の電極構造を3次元構造に拡張することで,電池容量,電池内部抵抗,放熱性の向上による熱膨張の低減,熱均一性,機械的安定性,安全性を向上させることを目的とした研究開発が進んでいる。最近の3D 電極アーキテクチャに関する研究開発は,電極活物質そのものではなく,集電体に関するものとが主流になっていると思われる。
レーザープロセッシングの分野の者からすると,”3D 電極アーキテクチャ” としては,ドイツKITのWilhelmのグループによるfsレーザーアブレーションで3D電極形成技術をイメージしていた。この技術は,リチウムイオン電池の正極材料をfsレーザー可能によって三次元化するものとなっている。この手法によって,様々な表面形状の正極材料の形成が可能とされているが,しかし, Li(Ni0.6Mn0.2Co0.2)O2等の正極材料を直接加工することは,いくら熱効果が無視できるフェムト秒パルスレーザーとはいえ,その化学組成への影響や正極活物質の不連続化による電池内部抵抗の増加等の影響が考えられ,会場で何度かその点に関して質問もしていた。
Recent progress in laser texturing of battery materials: a review of tuning electrochemical performances, related material development, and prospects for large-scale manufacturing
Wilhelm Pfleging, 2021 Int. J. Extrem. Manuf. 3 012002
https://iopscience.iop.org/article/10.1088/2631-7990/abca84
https://iopscience.iop.org/article/10.1088/2631-7990/abca84/pdf
A review of laser electrode processing for development and manufacturing of lithium-ion batteries
Wilhelm Pfleging, Nanophotonics,
https://doi.org/10.1515/nanoph-2017-0044
これに対して,最近イスラエルの新興企業Addionics等が展開している”3D 電極アーキテクチャ”は,集電体に関するものとなっており,Addionics社は,Smart 3D Current Collectors™ architectureと言っている。
https://www.addionics.com/technology
この技術は,これまでにEETimes等で紹介されているが,
「EV向け固体電池など開発へ、「3D電極技術」の新興企業」
https://eetimes.itmedia.co.jp/ee/articles/2202/28/news064.html
その記事では実際の技術内容の詳細を知り得ず,Webで情報を探索してみた。↓
Addionics社のホームページのトップ,
そのページにあるYoutubeの動画
Addionics | Powering The Future
https://www.youtube.com/watch?v=lq0L0Av5m0Q
(以下,Youtube動画共有)
↑上記動画の再生時間14秒あたりに,"Smart 3D Electrode"の微細構造のイメージが表示されている。
この構造が実際の"Smart 3D Electrode"の微細構なのかどうかは,新興企業が一般公開している動画なので判断が難しいようにも思われるが,ともかく,金属等の導電体のレームと空隙からなる構造であることは想定される。
↓その他のAddionics社がアップしている動画をYoutubeで検索すると,"Smart 3D Electrode"の顕微鏡像を測定している場面が一瞬見える(再生時間24秒あたり)。こちらが実際の"Smart 3D Electrode"構造の一つと考えてよいかもしれない。
Addionics - reinventing battery architecture
https://youtu.be/og7Fjh7g7j4?si=ODA-JwOxJZ8pZiAI&t=24
(以下,Youtube動画共有,クリックで24秒からスタート)
アディオニクス、世界初のEVバッテリー用3D電極製造パイロットラインを公開
Addionics unveils the world's first 3D electrode manufacturing pilot line for EV batteries
「テルアビブ、イスラエル、[2023 年 2 月 9 日]:バッテリー技術の新興企業であるAddionicsは、電気自動車バッテリー用の先進的な Smart 3D Electrodes™ を製造するための新しい最先端のパイロット ラインを立ち上げます。 アディオニクスのパートナーのサポートを受けて、同社は主に世界の大手自動車メーカーやティア1サプライヤーを含む自動車業界向けに技術開発を拡大していきます。」
https://static.wixstatic.com/media/3f9c6f_b194b7550e29444299c9682cb817ee6b~mv2.jpeg/v1/fill/w_718,h_642,al_c,q_85,enc_auto/3f9c6f_b194b7550e29444299c9682cb817ee6b~mv2.jpeg
(パイロットラインのイメージ把握が必要なために,画像への直接リンクをさせていただきました。)
上記で広報されている ”世界初のEVバッテリー用3D電極製造パイロットライン”に関しても,Youtubeで情報公開されている。
Addionics Advanced 3D Current Collectors for the Next Generation of EV Batteries
https://www.youtube.com/watch?v=HxBVxU38HMg
(以下,Youtube動画共有)
↑"Smart 3D Current Corrector"への電池活物質のコーティングラインのイメージ動画で,"Smart 3D Current Corrector"の製造プロセスに関しての情報はなかった。
関連サイトでは,
3D アルミニウム集電体
https://www.addionics.com/3dcathode
「Addionics の高度な Smart 3D Current Collectorテクノロジーは、生産コストを大幅に削減し、生産能力を向上させながら、比類のないパフォーマンスを提供します。当社の 3D 構造箔の独自の設計により、コーティングの表面積が増加し、活物質と箔の間の結合が機械的に強化され、高度に多孔質の構造が形成されて性能が向上します。集電体設計に対する当社独自のアプローチにより、劣化を最小限に抑えるだけでなく、利用可能な容量が向上し、充電時間が短縮され、その結果、効率が向上し、電池寿命が長くなります。当社のスケーラブルな製造プロセスを活用することで、高品質の 3D 構造フォイルをコスト効率の高い方法で提供できるようになり、Addionics の技術を幅広いエネルギー貯蔵用途に利用できるようになります。」
自動アルミパイロットライン
「自動アルミニウム機械は、3D アルミニウム箔製造のための革新的で効率的なソリューションです。」
https://static.wixstatic.com/media/3f9c6f_2e4301af497f45aaadf8f2ed753ab557~mv2.jpg/v1/fill/w_664,h_441,al_c,lg_1,q_80,enc_auto/Screen%20Shot%202023-06-15%20at%2011_47_edited.jpg
(製造ラインのイメージ把握が必要なために,画像への直接リンクをさせていただきました。)
↑この製造ラインの製造装置の写真では,Smart 3D Current Collectoに関しては構造・製造法ともによくわからない。
の形状を有したフォイル状の集電体ということなのだろうか?
他社のサイトになるが,
発泡アルミニウム - 概要 - 種類 - 生産 - 用途(Exxentis Ltd)
Aluminium foam - overview - types - production - applications
「アルミニウム発泡体(アルミニウムとその合金をベースにした多孔質金属)は半世紀以上前から知られていますが、まだ流通量も用途も比較的少ないです。この主な理由は、アルミニウム発泡体の製造における構造と材料特性の再現性が低いことでした。アルミニウム発泡技術の開発により、これらの問題のいくつかを克服することが可能になりました。金属発泡体の製造のためのさまざまなプロセスが開発され、研究されてきました。」
「アルミニウムフォームの製造にはさまざまなプロセスがあります。ある場合には、金属発泡体は溶融金属からさまざまな方法で得られる。アルミニウムが冷えて固まると、金属発泡体が安定します。フォームの形成にはガス流または発泡剤が使用されます。発泡剤は特定の条件下で分解し、ガスが発生します。硬化前にフォームが崩壊しないように、気泡を安定させるために特別な添加剤が使用されることがあります。このプロセスは、アルミニウム発泡シート、単純な形状の製品、およびアルミニウム発泡サンドイッチを得るために使用できます。このような製品は、コアとして金属発泡体を備えており、その両面が固体アルミニウムの層で覆われています。
別の方法は、フィラーを使用して鋳造することです。たとえば、塩の粒子はフィラーとして機能する可能性があり、アルミニウムのマトリックスから洗い流されると、塩の粒子の代わりに細孔が現れます。耐熱コーティングを施したポリウレタンフォームも充填材として使用されており、熱処理中に燃え尽きます。
アルミニウム発泡体の別の製造プロセスでは、金属マトリックスに挿入される中空のセラミックまたは金属ボールが使用されます。
射出成形では、ポリマー顆粒を使用して細孔を作成できます。処理時間が非常に短いため、これらの顆粒は高温の影響下でも分解しません。これらは金属マトリックス中にフィラーとして残るか、長時間の熱処理によって除去されます。後者の場合、開放気孔アルミニウム発泡体が得られる。
発泡金属の製造には依然として粉末冶金という 1 つの方向性があります。まず、アルミニウム粉末と特別な添加剤の混合物が生成されます。このような混合物を加熱すると、発泡および焼結プロセスが発生し、冷却後に別の種類のアルミニウム発泡体が生成されます。
多孔質金属を得る最も現代的な方法は、積層技術です。積層造形を使用すると、コンポーネントの形状と 3D 構造を非常に正確に制御できます。しかし、このプロセスは依然として非常にコストがかかり、限られた数の金属にしか適用できません。」
https://www.exxentis.co.uk/wp-content/uploads/1-open-pore-aluminum-foam-and-metal-foam.png
(Aluminium foam のイメージ把握が必要なために,画像への直接リンクをさせていただきました。)
↑非常にわかりやすい。
Addionics社のSmart 3D Current Collectorも,上記のような発砲体に関連したものだろうか?
(Smart 3D Current Collector関連サイトのイメージや写真からは,こういったランダム構造ではなく,
もっと規則的な構造を有したものであるようにも見える。)
マグネシウム二次電池用の負極材料においても,3D構造の形成は有効と思われるが,
やはり,結晶面によって電気化学的な活性が異なることや,さらに,合金の場合は粒界の共晶の存在等,
「発泡体の製造における構造と材料特性の再現性が低いこと」
が,研究開発での評価において問題となってくると思われる。
まずは,トップダウン法で,マグネシウムあるいはマグネシウム合金を削っていって,2.5Dあるいは3D構造を有するマグネシウム負極系材料とそれを用いたマグネシウム二次電池の特性を検討していくというアプローチもあるように思う。
その点に関しては,私たちがこれまで行ってきたレーザープロセッシングの技術や知見を生かせる部分があると思われる。