アルミニウム二次電池【4】:アルミニウム - グラファイトデュアルイオン電池用のクロロアルミン酸塩イオン液体負極液の限界 (β版)

Limitations of Chloroaluminate Ionic Liquid Anolytes for Aluminum–Graphite Dual-Ion Batteries

 ACS Energy Lett, 5, 545–549 (2020)

Kostiantyn V. Kravchyk*,  Carlotta Seno, and Maksym V. Kovalenko*

 

*Laboratory of Inorganic Chemistry, Department of Chemistry and Applied Biosciences, ETH Zürich, Vladimir-Prelog-Weg 1, CH-8093 Zürich, Switzerland;  Laboratory for Thin Films and Photovoltaics, Empa-Swiss Federal Laboratories for Materials Science and Technology, Überlandstrasse 129, CH-8600 Dübendorf, Switzerland; 

Laboratory of Inorganic Chemistry, Department of Chemistry and Applied Biosciences, ETH Zürich, Vladimir-Prelog-Weg 1, CH-8093 Zürich, Switzerland;  Laboratory for Thin Films and Photovoltaics, Empa-Swiss Federal Laboratories for Materials Science and Technology, Überlandstrasse 129, CH-8600 Dübendorf, Switzerland

 

https://pubs.acs.org/doi/10.1021/acsenergylett.9b02832?fig=fig1&ref=pdf 

https://pubs.acs.org/doi/epdf/10.1021/acsenergylett.9b02832

 

Supporting Information

https://pubs.acs.org/doi/suppl/10.1021/acsenergylett.9b02832/suppl_file/nz9b02832_si_001.pdf

 

(著作権のため,図表は上記のURLの論文をご覧下さい)。

 

 --------------------------デュアルイオン電池-----------------------------------

 

アルミニウム二次電池【2】および アルミニウム二次電池【3】で見てきた

スタンフォード大のHongjie Daiらの論文においては,

Aluminum–Graphite Battery を,Dual-Ion Batteryとしてはいなかったが,

最近の多くの論文では,Aluminum–Graphite Dual-Ion Battery(AGDIB)とされている。

 

Aluminum–Graphite Battery の充放電機構は,以下の式(1)および(2)のような,

カソード・グラファイト電極での,グラファイト中へのAlCl4- のインタカーレーション(充電)・デインターカレーション(放電)と,

アノード・Al電極での,Al2Cl7- からアルミニウム電極表面へのAl電着(充電)・アルミニウムのイオン化と,電解質中のAlCl4-との反応によるイオン種Al2Cl7- の形成(放電)

と考えられている。

 

 

 

 

デュアルイオン電池という定義は,最近,種々の電池系で用いられているが,

ロッキングチェア型の充放電機構の二次電池への対比として用いられる場合が多いように思われる。

 

代表的なロッキングチェア型の二次電池としては,リチウムイオン電池(LIB)が挙げられ,

その充放電においては,リチウムイオンがカソード・アノード間を移動(行ったり来たり)する。

そのため,電解液のリチウムイオンは単に移動するだけで蓄える必要が無いので、

電解液を極力少なくすることができる。

その反面,リチウムイオンのカソード・アノード間の移動が起こらなければならないので,

充放電速度に限界がある。

 

その対比としての従来型の二次電池は,リザーブ型とも呼ばれ,

充電時に,電解液からのイオン種の電極への析出(電着)が起こり,電解質中のイオン種濃度が減り

放電時には,電極からのイオン化による電解液へのイオン種の溶出が起こり,電解液中のイオン種濃度が増加する。

このように,リザーブ型の電池は,金属イオンの析出・溶出が起こり,電解質の濃度変化があるので、

ある程度の電解液の量が必要となる。

 

Aluminum–Graphite Battery の場合,アノードのアルミニウム電極側の反応を見ると,

アルミニウムイオンの析出・溶出を伴うリザーブ型の二次電池になっている。

 

これに対して,カソードのグラファイト電極での充放電反応は,

グラファイト中へのAlCl4- のインタカーレーション(充電)・デインターカレーション(放電)となってる。

 

Aluminum–Graphite Battery においては,

アノード(負極)とカソード(正極)とで,異なるイオン種の充放電機構となっていることから,

Aluminum–Graphite Dual-Ion Battery(AGDIB)と呼ばれだしたものと思われる。

 

デュアルイオン電池としては,デュアルカーボン電池の研究開発が以前からあり,

電解液中のカチオン (Li+) とアニオン (PF6-) の両者が電極活物質中へインタ ー カレ ー ションして蓄電を行うので,

キャパシタとしての特長と電池としての特長を併せ持つ蓄電デバイスとなる。

溶媒和しないアニオンを正極インタ ー カレ ー ションに使用するので、

パワー密度をリチウムイオン電池の数倍以上に大きくする事ができ、キャパシタ並みの高速充放電が可能となる,

とされている

 

(Ref.)

https://edn.itmedia.co.jp/edn/articles/1205/18/news012_4.html

https://nissin.jp/technical/technicalreport/pdf/2012-139/2012-139-07.pdf

https://www.t.u-tokyo.ac.jp/hubfs/shared-old/press/data/setnws_e8c60028f0bb_2013010701_jpn_458564.pdf

https://jp.ricoh.com/-/Media/Ricoh/Sites/jp_ricoh/technology/exhibition/nanotech/pdf/green01.pdf

https://www.sigmaaldrich.com/JP/ja/technical-documents/technical-article/materials-science-and-engineering/batteries-supercapacitors-and-fuel-cells/ionic-liquids-based-electrolytes-for-rechargeable-batteries

 

グラファイト正極への PF6-インターカレーションは、Li/Li+の平衡電位に対し て 5 V付近で行なわれることによって、

5 Vを超える高電圧な二次電池を構築する ことができる。

 

(Ref.)

デュアルイオン電池における繰り返し充放電特性の向上とガス発生抑制

https://api.lib.kyushu-u.ac.jp/opac_download_md/4060245/ifs0054.pdf

A Novel Aluminum–Graphite Dual-Ion Battery

https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/aenm.201502588

https://onlinelibrary.wiley.com/doi/epdf/10.1002/aenm.201502588

 

 ---------------------------Ionic Liquid Anolyte------------------------------------

 

 Aluminum–Graphite Dual-Ion Batteriesに関するこの論文のタイトル

「Limitations of Chloroaluminate Ionic Liquid Anolytes for Aluminum–Graphite Dual-Ion Batteries」

においては,”Limitations ”および” Ionic Liquid Anolytes”という表現にが気になるところと思う。

 

まず,Anolyte は,分野が違うと聞きなれない言葉のように思うが,レドックスフロー電池の分野では,

電解液に対して,負極液はanolyte,正極液は catholyteが用いられている。

 

(Ref.)レドックスフロー電池の展望

https://www.jstage.jst.go.jp/article/electrochemistry/85/3/85_17-3-FE0011/_pdf/-char/ja

 

著者らこの論文で,以下のように述べている。

 

further progress of this technology is inherently limited by the low charge storage capacity of the chloroaluminate ionic liquids used as anolytes (often but incorrectly called electrolytes). 

 

の技術のさらなる進歩は負極液 (しかし多くの場合,誤って電解質と呼ばれる) として使用されるクロロアルミン酸塩イオン液体の電荷蓄積容量が低いため、本質的に制限されている。

 

その理由については,以下のように言っている。

 

■EMIMCl (1-エチル-3-メチルイミダゾリウム クロリド)よりも過剰な AlC3 を含むクロロアルミン酸イオン液体は,

AlCl4 –イオンと Al2Cl7–イオンの両方で構成される。

重要なことは,Al2Cl7–イオンのみがアルミニウムの電着を可能にするため、

酸性のクロロアルミン酸塩イオン液体  (つまり、過剰な AlCl3 ) でのみアルミニウムの電着が起こる。

したがっ,酸性イオン液体の比電荷蓄積容量は,イオン液体中のAl2Cl7–イオンの濃度の関数となる。

 

■イオン液体中に Al2Cl7–イオンが残らなくなると,電気めっきとその結果としての充電プロセスが停止し,

その時点で溶融物は中性になる (AlCl3 :EMIMCl = 1)。

 

■イオン液体を形成するAlCl3と EMIMCl の最大モル比 ( r ) は2:1である。

AlCl3 は、より高いモル比ではクロロアルミン酸塩溶融物に溶解しない。

 

■AGDIB のメカニズムが「ロッキングチェア」型金属イオン電池の動作とは大きく異なることに注意されたい。

Al3+イオンは,カソードからアノードへ,またはその逆方向への流れが存在しない。

 

■実際、Al 種は AGDIB の充電中にクロロアルミン酸イオン液体から枯渇し、両方の電極によって消費される。

 

■一般的に報告されている AGDIB (アルミニウム - グラファイトデュアルイオン電池)特性テストでは,

最大 10 倍過剰 (またはそれ以上) のイオン液体負極液が使用されている。

このような 10 倍の負極液が用いられた場合には,非実用的なセル全体の電荷蓄積容量 (<5 mAh/ g  ) に再計算されるべきことに注意されたい。

負極液が制限されたセルでは,Al2Cl7–イオンの枯渇により,最終的にバッテリーの負極の電位が低下する。

 

■結論として,一般に報告されている AGDIB のテストでは,大過剰のイオン液体負極液 (カソード制限セル) が使用されており,名目上は完全なセルを扱っているにもかかわらず,達成可能なエネルギー密度と出力密度についても,正しく実際に関連する情報が提供されていないことを繰り返す。

 

■AGDIB で使用されるイオン液体は単なる電解質 (イオン伝導体) ではなく,電気化学的に活性で,容量と速度を制限する電池コンポーネントを表すことに注意すべきだ。

著者らが,chloroaluminate ionic liquids used as anolytes (often but incorrectly called electrolytes)

と言っていた理由。

 

■今後の研究では,この負極液の量を容量に見合った量,理想的にはわずか約 100 ml に向けて最小限に抑える方法を見つけることに焦点を当てるべきであることも明らかだ。バッテリーの出力密度とサイクル可能性を犠牲にすることなく,過剰な負極液を 削減しなければならない。おそらく,この問題をうまく解決するには,市販のリチウムイオン電池や新しい電池材料のほぼすべてのテストで採用されているものとは大きく異なる,根本的に新しい電池設計が必要になるだろう。一般に AGDIB に起因する全体的なコスト競争力 (電気化学的に活性な成分の低コストに基づく) を維持するには,これらすべての進歩を低い資本コストで実現する必要がある。同様の考慮事項は,マグネシウム - ナトリウムおよびマグネシウム - リチウムのデュアルイオン電池など,ロッキングチェア以外の他の電池にも当てはまります。

 

正論ではあるが,著者らの厳しい指摘。

リザーブ型のデュアルイオン電池の大半に当てはまってしまう。

 

 -------------------------------------おわりに---------------------------------------------

 

アルミニウム二次電池【2】および アルミニウム二次電池【3】で,

 

スタンフォード大のHongjie Daiらの論文における,二次電池としては異常な高パワー密度の理由を把握できないでいたが,

その説明の一つとしては,ロッキングチェア型よりも高速充電が可能な,リザーブ型のデュアルイオン電池であることが挙げられると思われる。

 

また,この論文の著者らが指摘しているように,使用されるイオン液体が単なる電解質 (イオン伝導体) ではなく,電気化学的に活性で,容量と速度を制限する電池コンポーネントになっている点も挙げられる。

アルミニウム電極でのイオン化溶出・電着析出が,超高速で起こることに違和感を持っていたが,

溶出アルミニウムイオン及び電着アルミニウムのソースとなるのは,アルミニウム電極ではなく,イオン液体中のイオン種であるAl2Cl7 -イオンとなっている。

Al2Cl7-イオンから,アルミニウム電極表面に析出(電着)したアルミニウム層は,アルミニウム金属電極の固相結晶状態とは違って,かなりアモルファスで粒状性のあるものとなるように思われ,アルミニウム金属電極の酸化還元反応に比べて,反応が起こりやすいことも,高速充放電特性に寄与していると考えられる。

 

しかし,上記の特性から,Hongjie Daiらの論文のタイプのアルミニウムイオン二次電池においては,

アノードのアルミニウム電極での充放電反応に寄与するアルミニウムイオン源は,

クロロアルミン酸塩イオン液体そのものとなるために,

電池の容量は,カソードのカーボン電極の重さ(体積)でも,アノードのアルミニウム電極の重さ(体積)でもなく,

クロロアルミン酸塩イオン液体の重さ(体積)に依存することになる。

 

著者らはこの論文で,「一般的に報告されている AGDIB (アルミニウム - グラファイトデュアルイオン電池)特性テストでは,最大 10 倍過剰 (またはそれ以上) のイオン液体負極液が使用されている。」としている。

 

 

上記の点,GMG社のグラフェンーアルミニウムイオンバッテリーでは,どのようになっているのだろうか。

 

 

引き続き,アルミニウムイオンバッテリーまわりの一次資料の検索と検証を続けていく予定です。

 

 

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