アルミニウム二次電池【10】:イオン液体,深共晶溶媒関連 No.1

イオン液体を用いた電解質の二次電池への応用 

 Meng-Chang Lin1,2 Hui Chen2 Hongjie Dai3 

1 AB Systems Inc., 2458 Embarcadero Way, Palo Alto, California 94303, USA

2 College of Electronic Engineering and Automation, Shandong University of Science and Technology、266590, Qingdao, China

3 スタンフォード大学化学科、スタンフォード、カリフォルニア94305、米国

Material Matters Vol.13 No.1

 (Material Mattersシリーズは、材料科学研究者のためのMerck の季刊ニュースレター)

 

https://www.sigmaaldrich.com/JP/ja/technical-documents/technical-article/materials-science-and-engineering/batteries-supercapacitors-and-fuel-cells/ionic-liquids-based-electrolytes-for-rechargeable-batteries

 

https://www.sigmaaldrich-jp.com/catalog/download/CHM012

 

1-エチル-3-メチルイミダゾリウムクロリド−塩化アルミニウム系のイオン液体電解質を用いたグラファイトーアルミニウムイオンバッテリーに関して先駆的な論文(以下)を報告しているスタンフォード大のグループによる,イオン液体を用いた電解質の二次電池に関する総説。

 

アルミニウム二次電池【2】:超高速充電可能なアルミニウムイオンバッテリ ー

アルミニウム二次電池【3】:高品質の天然グラファイト正極を備えた先進的な充電式アルミニウム イオン バッテリー

アルミニウム二次電池【4】:アルミニウム - グラファイトデュアルイオン電池用のクロロアルミン酸塩イオン液体負極液の限界

 

やはり,イオン液体ではコストが課題となる。

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上記の総説では,共晶溶媒(DES,Deep Eutectic Solvent)という用語を用いていないが,

「アミド配位子(尿素:ureaなど)は、アルミニウム蓄電池用のイオン液体電解質または十分に共融した溶媒(擬似イオン液体)電解質を形成するのに使用できることが示されてきた。」

と述べられている部分の,”共融した溶媒(擬似イオン液体)”は,共晶溶媒(DES)の一種に分類されると思われる。

 

その他の二次電池関連のWebニュースや資料等で,”共融系液体”と呼ばれているものも,共晶溶媒(DES)の一種に分類されると思われる。

 

1980年代後半、Giffordらは[2]、アルミニウム負極、黒鉛正極とAlCl3/1,2-dimethyl-3-propylimidazolium chloride電解質を採用したアルミニウム/塩素蓄電池を発表しました。黒鉛正極では、可逆的に塩素がインターカレーション(層間に挿入)します。この電池は、1.7 Vの平均放電電圧と黒鉛重量基準で35 mAh g-1 の最大充電容量をもちました

 

2. GIFFORD PS, PALMISANO JA. 1988. ChemInform Abstract: An Aluminum/Chlorine Rechargeable Cell Employing a Room Temperature Molten Salt Electrolyte.. ChemInform. 19(25):

https://doi.org/10.1002/chin.198825016   

 

「我々は、アルミニウム負極、黒鉛正極および塩化アルミニウムと尿素を1.3:1で混合した低コストの擬似イオン液体電解質を用い、高いクーロン効率(約99.7%)をもつアルミニウムイオン電池を開発しました[6]。1.9 Vと1.5 V(平均放電電圧:1.73 V)付近に放電電圧プラトーを示し、100 mA g–1の電流密度(約1.4 C)で約73 mAh g–1の比正極容量でした。適当な充放電速度の範囲であれば、150~200サイクルまで安定して、このような高いクーロン効率を達成することも難しくはありません。しかし、AlCl3/[EMIm]Cl電解質に比べて約10倍も高い粘性と低いイオン導電率をもつ尿素ベースの電解質(例えば、25℃で、約1.23 mS cm-1であるAlCl3/尿素比が1.3(モル比)の電解質)では、尿素ベースのアルミニウム電池の可能なCレートの範囲が小さくなることが難題です。

 

6.Angell M, Pan C, Rong Y, Yuan C, Lin M, Hwang B, Dai H. 2017. High Coulombic efficiency aluminum-ion battery using an AlCl3-urea ionic liquid analog electrolyte. Proc Natl Acad Sci USA. 114(5):834-839.

https://doi.org/10.1073/pnas.1619795114

https://www.pnas.org/doi/epdf/10.1073/pnas.1619795114   」

 

「黒鉛の充電つまり黒鉛内部へのインターカレーションに使われるのに余りある量のAlCl4–(式1)と負極にアルミニウムを電着させるのに十分な量のAl2Cl7–を用い(式2)、電解質中のAlCl4–とAl2Cl7–の濃度が平衡状態にあることで、正極での電荷容量が最適化されます。尿素ベースの電解質の場合、AlCl4–とAl2Cl7– アニオンおよび[AlCl2・(urea)n]+カチオンが塩化アルミニウム/尿素電解質中に共存します。アルミニウムの電着は、アニオン(式2)とカチオン(式3)が関わる2つの経路で進んでいると予想されます6。

 

イオン液体を用いたデュアルグラファイト電池

最初のデュアルグラファイト電池はCarlinらによって提案されたもので、テトラクロロアルミン酸1-エチル-3-メチルイミダゾリウム(EMI+AlCl4–)などのさまざまな常温イオン液体を用いていました。充電過程で、EMI+は黒鉛負極中に、AlCl4−は黒鉛正極中にインターカレートします。この電池の放電電圧は、3.15 Vでした。しかし、EMI+は黒鉛にインターカレートされると不安定なために、インターカレーションとデインターカレーションの可逆性は比較的乏しいものでした15。特に、デュアルグラファイト電池では、正極の駆動電位が非常に高いため(対Li/Li+で5 V以上)、電解液については特に高い酸化耐性が要求されます。Münster大学のWinterグループは、Py14TFSI/LiTFSIと固体電解質界面(SEI: solid electrolyte interface)を形成するための添加剤である亜硫酸エチレンを混合したイオン液体を用いたデュアルグラファイト電池が、高い電気化学的特性を示すことを実証しました」

 

 -----------------共晶溶媒とは-----------------------------

 

上記の総説では,共晶溶媒(DES,Deep Eutectic Solvent)という用語を用いていないが,

「アミド配位子(尿素:ureaなど)は、アルミニウム蓄電池用のイオン液体電解質または十分に共融した溶媒(擬似イオン液体)電解質を形成するのに使用できることが示されてきた。」

と述べられている部分の,”共融した溶媒(擬似イオン液体)”は,共晶溶媒(DES)の一種に分類されると思われる。

その他の二次電池関連のWebニュースや資料等でで,”共融系液体”と呼ばれてるものも,共晶溶媒(DES)の一種に分類されると思われる。

 

共晶溶媒(DES)に関して,Web検索すると,種々サイトが出てくるが,概略は以下のサイトで知ることができる。

 

深共晶溶媒 Deep Eutectic Solvent

https://academic-accelerator.com/encyclopedia/jp/deep-eutectic-solvent

 

Reference Source: Wikipedia, The Free Encyclopediaということで,以下のサイトになる。

英語サイトで,まだ日本語のサイトは無いようだが,Google翻訳してみると,上記サイトの和訳に一致した。

Wikiの場合には,出典を明示すれば引用が許可されると以前に確認したことがあったので,

Wikiのサイトの機械翻訳から引用させていただくことにする。

 

(最近の機械翻訳の精度は高くAIが貢献していると思われるが,それによって作業効率が格段に上がる。

非常に専門性の高い用語の場合には誤訳もあるが,それはその専門分野の者の訂正によればよいと思う。)

 

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(出典)Wikipedia

Deep eutectic solvent

https://en.wikipedia.org/wiki/Deep_eutectic_solvent

 

深共晶溶媒 (DES) は、共晶混合物を形成するルイス酸またはブレンステッド酸と塩基の溶液です。深共晶溶媒は、親成分の構造や相対比を変えることで高度に調整できるため、触媒、分離、電気化学プロセスなど、さまざまな潜在的な用途があります。深共晶溶媒の親成分は複雑な水素結合ネットワークに関与しており、その結果、親化合物と比較して大幅な凝固点降下が生じます。 DES で観察される凝固点降下の程度は、モル比1:2の塩化コリンと尿素の混合物によってよく示されます。塩化コリンと尿素は両方とも室温で固体で、融点はそれぞれ 302 °C (分解点) と 133 °C ですが、この 2 つを 1:2 のモル比で組み合わせると凝固点 12 °C の液体になります。

 

第一世代の共融溶媒は、第四級アンモニウム 塩とアミンやカルボン酸などの水素結合供与体との混合物をベースにしていました。DES は組成に基づいて 4 つのタイプに分類されます。

 

タイプ I 共晶には、AlCl3 + 1-エチル-3-メチルイミダゾリウムクロリドの混合物をベースとするイミダゾリウム クロロアルミネートなど、1980 年代に広く研究された幅広いクロロメタレート イオン溶媒が含まれます。

まさに,スタンフォード大のグループがグラファイトーアルミニウムイオンバッテリーの電解質に適用した系となる。

 

タイプII 型共晶は組成が I 型共晶と同一ですが、金属ハロゲン化物の水和形態を含みます。

 

タイプ III 共晶は、第 4 級アンモニウム塩 (塩化コリンなど) などの水素結合受容体と水素結合供与体 (尿素、エチレングリコールなど) で構成され、金属を含まない深共晶溶媒のクラスが含まれます。

 

タイプ IV 共融物はタイプ III に似ていますが、尿素などの有機水素結合供与体を引き続き使用しながら、第 4 級アンモニウム塩の水素結合受容体をハロゲン化金属の水素結合受容体に置き換えます。IV 型共融物は、カチオン性金属錯体を生成し、電極表面に近い二重層の金属イオン濃度が確実に高くなるため、電着にとって興味深いものです。

 

工業プロセスやデバイスにおける DES の広範な実用化は、これまでのところ、比較的高い粘度と低いイオン伝導率によって妨げられてきました。さらに、親化合物の構造と溶媒の機能の関係が理解されていないため、一般的な設計ルールの開発が妨げられています。構造と機能の関係を理解するための研究が進行中です。

 

多くの特徴を共有するものの、イオン混合物ではなくイオン化合物であるビストリフリミドなど、個別の陰イオンをベースにした最新のイオン液体と比較して、DES は製造コストが安く、場合によっては生分解性です。[13]したがって、DES は安全、効率的、簡単、かつ低コストの溶媒として使用できます。

 

現在までに、DES については数多くのアプリケーションが研究されています。DES の成分とそのモル比を変えることにより、新しい DES を生成できます。このため、毎年多くの新しい用途が文献に発表されています。DES の初期の用途のいくつかは、DES を電解質として使用する金属の電解仕上げでした。

 

DES はその独特な組成により、溶媒和環境として有望であり、溶質の構造と自己集合に影響を与えます。たとえば、DES 中のドデシル硫酸ナトリウム(SDS)の自己集合が最近研究されており、DES が水中とは異なるマイクロエマルションを形成できることが示唆されています。別のケースでは、DES 中のポリマーポリビニルピロリドン(PVP)の溶媒和は水とは異なり、そのため DES はポリマーにとってより優れた溶媒であると考えられます。溶質の物質の状態に応じて、均一または不均一の混合物が形成されることも示されています。

 

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タイプ IV の例としては,以下の論文(オープンアクセス)が引用されていた。

 

Abbott, Andrew P.; Al-Barzinjy, Azeez A.; Abbott, Paul D.; Frisch, Gero; Harris, Robert C.; Hartley, Jennifer; Ryder, Karl S. 

"Speciation, physical and electrolytic properties of eutectic mixtures based on CrCl3·6H2O and urea".

CrCl 3・6H2O および尿素 をベースとした共晶混合物の種分化,物理的および電解的特性

Physical Chemistry Chemical Physics, 2014, 19, 9047–9055.

https://pubs.rsc.org/en/content/articlelanding/2014/cp/c4cp00057a

https://doi.org/10.1039/C4CP00057A

 

「ほとんどのイオン液体および DES にはカチオン成分として第 4 級アンモニウムイオンが含まれていますが、

最近では、金属塩 (水和物) と単純なアミドまたはアルコールの間でも共晶を形成して、カチオンで構成される金属含有溶液を形成できることが示されました。

2AlCl 3 + 尿素[左右銛][AlCl 2・尿素] + + [AlCl 4 ] 

 

これらのいわゆるタイプ 4 共晶は、カチオン性金属錯体を生成するため有用であり、電極表面に近い二重層の金属イオン濃度が確実に高くなります。」

 

 

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 イオン液体,深共晶溶媒関連 No. では,

尿素の深共晶溶媒系を始めとする低コストなイオン液体代替の電解質等に関する情報検索を行っていく予定。

 

 

 

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