水中でも機能するUHF帯RFIDタグセンサー,UHF帯RFIDタグ温度センサー,おむつセンサー
私たちは,高誘電体である人体に装着しても通信が可能なウェアラブルUHF帯RFIDタグの研究開発を行っていますが,このようなRFIDタグは,水中においてさえ動作することがわかりました(特願2022-074174)。動画1では,ガラス容器にセットしたUHF帯RFIDタグに温水を徐々に入れていくと,RFIDタグ全体が温水に浸されるようになってからRFIDリーダー・ライタとの通信が可能になり,ワイヤレス温度計測が始まっています。Fig.1には,水中での温度計測に関して,。RFIDタグ温度センサーによるワイヤレス計測値と熱電対による計測値との比較を行ったデータを示しましたが,両者は良い一致を示しました。
このようなワイヤレス温度計測には,温度センシング機能を有したRFIDタグ用ICを用いています。代表的なものとしては,AXIZONのMagnus®-Sシリーズがあります。Magnus®-S3においては,温度センサー機能に加えて,インピーダンスのオートチューニング機構があり,周囲の誘電率等の環境変化に対応したチューニング量をセンサーコードSとして出力できます。また,RFIDタグ上の受信信号強度(RSSI, Received Signal Strength Indicator)であるオンチップRSSIやリーダーRSSIを出力する機能を有しています。
Magnus®-SシリーズICは旧RFMicronによって開発されSmartracと共同で,”Passive RFID Temperature Sensor Technology” として2016年にリリースされたものですが,現在のところその優れた機能の割には普及していません。しかし,WPT(Wireless Power Transfer)が可能な点からも,今後のトリリオン・センサーからなるICT社会における要素技術の一つと期待されます。
【動画1】水中でのみ通信感度を有するUHF帯RFIDタグ温度センサーによるワイヤレス水温変化計測(4倍速).
Fig. 1 水中での温度計測。RFIDタグ温度センサーによるワイヤレス計測値と熱電対による計測値との比較。室温水中にセットしたRFIDタグ温度センサーとK熱電対に対して,約80℃の温水を段階的に加えた場合の変化.
近年,介護の現場の労力負担の軽減を目的として,被介護者の排泄物による濡れやオムツの交換タイミングを検知するための,おむつセンサーの開発が進んでいます。UFH帯RFIDタグは,薄型フレキシブル・軽量で装着負荷がほとんどなく通信距離がとれることから,おむつセンサーへ応用されています(例えば,オムツテック)。
従来のUHF帯RFIDタグ型センサーを用いたおむつセンサーにおいては,排泄物での濡れによるRFIDタグとリーダーとの間での通信の可否により,オムツの交換タイミングが判定され,その途中の状態を観察することは困難でした。これは,従来のRFIDタグの通信が水中で阻害されるためです。私たちが高誘電体用に開発したUHF帯RFIDタグセンサーは,水中での通信が可能であり,また,Magnus®-S3型の ICチップによって被介護者の検温も同時に行えるメリットを有しています(特願2022-074174)。
Fig.2には,水中でも機能するUHF帯RFIDタグセンサー(ICチップ Magnus®-S3)をおむつに装着して計測した,温水(約37℃)5mlを段階的に滴下した場合のおむつの温度およびセンサーコードSの変化を示しています。このRFIDタグセンサーのセンサーコードSは,誘電率が高い環境下,すなわち,水が多く存在する環境下ほど小さな値を示すような特性となっています。RFIDタグセンサー近傍に温水を滴下後に,急激にセンサーコードSが下がっていますが,その後,周囲の高分子吸水材に水が拡散していくことで,センサーコードSの値は徐々に一定値に回復しています。温水を低下する回数が増えていくにつれて(おむつの含む水分量が増えるにつれて),センサーコードSの値は低下しています。このように,水中でも機能するUHF帯RFIDタグセンサーによって,被介護者のおむつの濡れの状態を,検温も同時に行いながら,センシングすることが可能となります。
Fig.2 水中でも機能するUHF帯RFIDタグセンサー(ICチップ Magnus®-S3)をおむつに装着して計測した,温水(約37℃)5mlを段階的に滴下した場合のおむつの温度およびセンサーコードSの変化. 実際の実験では,RFIDタグセンサーは,おむつの高分子吸水体内部に装着して測定.
UHF帯RFIDタグの製作には,通常は大掛かりな大量生産装置と多大な経費が必要となり,小ロットでのカスタム品の製造を行うことは困難です。弊社ではレーザープロセッシングにより種々のユニークな特性を有したUHF帯RFIDタグを低コスト・少枚数でカスタム製造・試作できます(特願 2022-109329)。