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非液体電解質,高分子ゲル電解質,IRドロップ,フレキシブル
2023.8.16
液体電解質と異なり、非液体電解質は積層構造の形成が可能であることが利点となります。私たちが検討を行っている全固体型マグネシウム二次電池の基本構造は,Fig.1の構造Aに示したような,多層構造からなります。構造Aにおいて,10が負極となる金属電極(マグネシウム),11が正極,そして,それらの間にゲル電解質層20および21等の複数の層構造が備えられています(特願2023-132259)。ゲル電解質層20は,ヨウ化カリウム(KI)を含んでおり,マグネシウム電極との間での酸化還元反応に基づく充放電特性を示します。
Fig.1の構造Bには,単層型電解質二次電池の構造を示しました。 10,11, および20は,それぞれ,負極となる金属電極(マグネシウム),正極,およびヨウ化カリウム(KI)を含むゲル電解質層であり,それらは構造Aと同様となっています。
Fig.1 積層型電解質二次電池(構造A)および単層型電解質二次電池(構造B)の断面の模式図.
充放電特性
非液体電解質では、液体電解質の場合よりもイオン種の拡散が起こりづらいことや、電解質と電極との間の界面抵抗の増加等の様々な因子によって過電圧が生じ、それによって、放電直後に電圧が降下するIRドロップ(IR損)が顕著となります。IRドロップの増加によって、二次電池の放電電圧の低下や、充放電サイクル特性等の、電池性能の劣化が起こるという課題があります。
Fig.2には,単層型電解質マグネシウム二次電池(構造B)の充放電曲線を示しました。充電から放電に切り替え直後のIRドロップの最大値IRD0及び充電から放電に切り替え1分後のIRドロップであるIRD1は、いずれも大きな値となりました。充放電曲線における、電圧変化も顕著となっています。
これに対して,私たちが検討を行っている構造Aで示されるような積層型電解質マグネシウム二次電池の場合には,Fig.3の充放電曲線で示されるように,いずれのサイクルにおいても、充電から放電に切り替わる際の、スパイク状のIRドロップは起こらず、また、充電から放電に切り替え1分後のIRドロップは0.05V以下と小さく、非常に良好な特性でした。また、サイクル数の増加に伴う充放電曲線の変化は、100サイクル目まで、ほとんど起こりませんでした(特願2023-132259)。
ヨウ素イオンやヨウ素は,マグネシウム二次電池の酸化還元反応に係わる基本的な化学種ですが,ヨウ素イオンの酸化によるヨウ素の生成と、ヨウ素イオンとヨウ素が係る複雑な酸化還元反応は,マグネシウム二次電池の充放電特性に悪影響を及ぼす場合があります。私たちは,積層型電解質マグネシウム二次電池において,複数の層構造によって,正極側と負極側での電気化学反応に係わる化学種を規制し,それによって,IRドロップ(IR損)につながる現象の抑制のための検討を行いました。
このような全固体型マグネシウム二次電池の放電電圧は,1.5V付近にあり,従来型の電池の置き換えに好都合となっています。また,ゲル電解質の特性を生かして,厚さ1mm前後のフレキシブルな薄型二次電池を形成でき,今後ますます普及することが予想されるウェアラブル型の小型電子機器用の安全性の高い電源としての可能性を有しています。
Fig.2 マグネシウム二次電池(構造B)の(a)5サイクル目、(b)10サイクル目、(c)20サイクル目、
及び(d)100サイクル目の充放電曲線.
Fig.3 マグネシウム二次電池(構造A)の(a)5サイクル目、(b)10サイクル目、(c)20サイクル目、
及び(d)100サイクル目の充放電曲線.