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 全固体型 多価金属二次電池に向けて  No.6 

電極表面形状効果による電極の電気化学的活性化 (2)

電気化学電池用電極及びそれを用いた電池(特願2023-182334)関連

 

2023.10.27

 

微細な凹部を有するマグネシウム

金属電極を負極とした

全固体型マグネシウム二次電池

 Fig.1には,微細な凹部を有するマグネシウム金属電極の負極としての特性評価を行った,全固体型マグネシウム二次電池(マグネシウムヨウ素イオン二次電池)の構造を模式的に示した.多数の微小な凹部を有するマグネシウム電極を負極,多孔質なカーボン電極を正極とし,第一非液体電解質としては,ポリビニルアルコール(PVA)にヨウ化カリウム等を分散させたものを用い,第二非液体電解質としては,PVAに塩化リチウム等を分散させたものを用いた。

Fig.1 微細な凹部を有するマグネシウム金属電極を負極とした全固体型マグネシウム二次電池の模式図.


 (注)たちが検討を行っている全固体型マグネシウム二次電池( マグネシウムヨウ素二次電池)においては,ヨウ素イオン(I)はマグネシウム負極側の第一非液体電解質層に存在するものの,それは,第二非液体電解質層で正極のカーボン電極と分離されており,副反応が起こらない限り電池系内にヨウ素(分子)は存在しないため,ヨウ素(分子)のシャトル効果の問題は生じてこない。

また,カーボン正極側の電気化学反応は,リチウムイオンのカーボンへのインターカレーションになっている。

 

そのため,従来のマグネシウムヨウ素二次電池とは,電池構成及び起こっている電気化学反応が異なっている。

そのため,ここでは,

マグネシウムヨウ素イオン二次電池 と呼ぶこととする。


充放電特性における

電極表面形状効果

 Fig.2には,全固体型マグネシウム二次電池の充放電曲線を示した.定電流(電流密度 100 μA/ cm2)で,充電(10分間)ー放電(10分間)を繰り返すことで,電極の特性評価を行った。

 

凹部を有さないマグネシウムシート電極を負極として用いた場合には,充電から放電に切り替わった直後に,鋭いスパイク状の電圧低下と,充電時および放電時に電圧の変動が起こった。これに対して,多数の微細な凹部を有すマグネシウムシート電極(Fig.2b,凹部の深さH=80.5μm)を負極として用いた場合には,充電時と放電時とでの電圧差と電圧変動に関して顕著な改善が見られた。

 

(充電から放電に切り替わった直後の鋭いスパイク状の電圧低下の改善に関しては,次項の金属/多孔質炭素ハイブリッド型電極の特性において述べる。)

 

Fig.2 マグネシウム二次電池の充放電特性.

(a) 凹部を有さないマグネシウム電極,(b)多数の微細な凹部を有するマグネシウム電極,

電極面積:1 cm2,電流密度: 100 μA/ cm2

 


 

Fig.3には,凹部の深さHと開口径Dとの比であるアスペクト比H/Dと充電から放電に切り替え10分後における充電電圧と放電電圧との電圧差であるΔV10との関係を示した。アスペクト比H/Dが0.35より大きな領域で,ΔV10は臨界的な減少を示した。これに対して,アスペクト比H/Dが0.35以下の領域では,アスペクト比H/Dの増加に伴うΔV10の低減は,ほとんど起こらなかった。これは,電極表面に形成した凹部が,金属のイオン化を促進するための孔食ピットと同様に働き電気化学的な活性を向上させるためには,アスペクト比H/Dが0.35よりも大きい必要があることを示している。アスペクト比H/Dが小さい場合(凹部の深さが浅い場合)には,電極表面と凹部とでの拡散性や局所濃度の違いが十分に生じないために,凹部形成による電極表面形状効果が生じづらいと考えられる。

電極形状効果による電気化学的な活性は,臨界的な挙動を示した。

 

Fig.3 凹部の深さHと開口径Dとの比であるアスペクト比H/Dと充電から放電に切り替え10分後における

充電電圧と放電電圧との電圧差であるΔV10との関係

 


金属系電極の場合には、表面から深さ方向に微小な開口を有する多数の凹部を形成することによって、内部の断面の露出が増加することも、電極の電気化学的な活性の向上に係る因子となる可能性が考えられる。そこで、凹部の深さ方向の断面の面積と圧延面に平行な電極面の面積との比から算出した断面/平面比と、充電から放電に切り替え10分後における充電電圧と放電電圧との電圧差であるΔV10との関係を求め、Fig.4に示した。凹部の深さ方向の断面の面積の算出においては、凹部の形状を円筒形と仮定した。

 

もし、電極の電気化学的な活性の向上が、凹部断面に露出した金属結晶面の活性に基づくものであれば、断面/平面比とΔV10とは、比例的な関係を示すはずであるが、Fig.4においては比例関係は示されなかった。0.45よりも大きな断面/平面比の領域で、ΔV10が臨界的に減少しているものの、0.45以下の断面/平面比以下の領域では、断面/平面比の増加に伴うΔV10の変化がほとんど見られなかった。

 

上記の結果から、電極に多数の微細な凹部を形成した場合に起こる電気化学的な活性向上の原因としては、電極表面に形成した微細な凹部が金属のイオン化を促進するための孔食ピット的に働くような、電極表面形状効果が主要因であると考えられる。これは、マグネシウム金属電極表面における、(0001)面等のマグネシウム結晶面の配向、添加元素の種類、それらの化学組成に限定されず、電解質中の化学種の局所的な拡散性や濃度差に影響するような電極表面形状効果によって、電極表面の電気化学的な活性を向上させることができることを示している。

 

Fig.4 断面/平面比と充電から放電に切り替え10分後における

充電電圧と放電電圧との電圧差であるΔV10との関係